更新日 : 令和03年11月22日(月曜日)
昔も今も木曽は森林国です。中世には、伊勢神宮をはじめ京都南禅寺、銀閣寺、聚楽第、方広寺などの建築用材の供給地となっていました。そうしたところでは木に関わる工匠が育つように木曽もまた多くの工人を輩出しています。特に旧上田村、原野村、宮ノ越村、薮原村、現在の新開上田から薮原にかけて多くの建築職人が生まれています。
江戸時代
その歴史は江戸時代に遡ります。
当時木曽を支配した木曽代官山村氏は、元禁中の御用大工であったと伝えられる田中氏を大工頭に任命し、木曽谷中の大工、杣、木挽、曲物師、指物師、塗師等を統括させています。記録によれば1736年の木曽谷の大工、木挽きの人数は大工113人、木挽89人都合202人とあって、当時の戸数を約4000と見るとその割合は5%となり、いかに比率の高い職業であったかがわかります。
木曽大工は、普通一人の棟梁大工を中心に七、八人で組み、これを一手合(棟梁、手間大工、弟子、木挽き)と呼び、木曽谷はもちろんのこと一段となって松本、長野、伊那に出向き、さらには江戸、名古屋方面までその名が知られていたようです。また「仲間規定」「職法」などの規約を定めて徒弟制度の維持を図り、仕事の取り合い、無許可での領外の渡り大工を使わないことなどを守っていました。棟梁は、受注の外交(営業)、建築設計、工費積算、材料調達、手合の労務管理、地鎮祭、上棟式やそれに伴う儀礼心得など建築家としての技量はもちろん責任者、統率者としての力量が必要とされました。
その活躍ですが、『東筑摩郡・松本市・塩尻市誌』には、正徳4年(1714)に綿沢新助(原野)が松本市笹賀の諏訪神社、寛延2年(1749)に狩戸弥三右衛門(宮ノ越)が朝日村の熱田神社、宝暦5年(1755)に中村伝左衛門(宮ノ越)が南安曇郡梓川村の大妻神社、宝暦7(1757)に朝日村の古川寺、宝暦10年に(1760)同光輪寺薬師堂、宝暦2年(1752)に宮越治郎右衛門が四賀村(現松本市)の保福寺観音堂、そのほか斉藤弁左衛門(宮ノ越)、牛丸平八(薮原)、武居与右衛門(上田)、奥原朋七(上田)の名もでており、なかでも奥原朋七が建てた東筑摩郡朝日村古見の上条家住宅は重要文化財の指定を受けています。
明治以降
幕末から明治にかけて活躍した木曽大工の棟梁に上田杭ノ原の斉藤常吉と上野の原彦左衛門がいます。斉藤常吉は、福島水無神社社殿、黒川の白山神社社殿、御嶽神社若宮本殿(いずれも木曽町)、伊那の光前寺山門、川中島の八幡社、岐阜内津峠の内津明神社社殿、上田の生島足島神社本殿など優秀な社殿を残しています。常吉が堂宮大工であったのに対して原彦左衛門は民家建築が主でした。嘉永五年19歳で贄川桜沢の民家を建てて以来44歳までの間に洗馬宿の本陣をはじめ農家、土蔵、水車小屋などの62軒を請け負ったことが記録として残っています。斉藤常吉の祖先の斉藤仙右衛門、栗本の奥原朋七ともに上田(木曽町)が生んだ名大工とされています。
そのほか、末川の庄屋中村家は万延元年に黒川の作蔵が建てたもので、現存する座敷の末川かぶをデザインした欄間の彫刻が素晴しいです。またこの時期、南箕輪村の御子柴薬師堂などの12神将像など仏像づくりとして宮越住加藤喜置や清水広造などの名も残されています。
明治維新後大工頭の制度は廃止されましたが、大工の徒弟制度は昭和20年頃まで続き、厳しい親方弟子の絆のなかで伝統技術の継承と大工職人としての人間形成がなされたようです。また明治から大正にかけては、神社、寺院はもちろん地元大工によって学校のような大きな建築も請け負っていることが注目されます。黒川の宮本義正が会社を起して主に木曽や伊那の尋常小学校を手がけています。結局、大企業に発展することはありませんでしたが、その伝統技術は受け継がれ、木曽には今でも多くの建築従事者がいます。木曽独特の景観を醸し出している家屋の特徴もこうした背景があって受け継がれたといえます。
板へぎ
木曽谷の家屋は木造で、屋根も板葺石置きが普通でした。したがって屋根板は生活上の必需品でした。屋根板は耐久性から、3、4年に一度は葺き替える必要があり、木曽谷の戸数から換算すると年間少なくても15万把にのぼる大量のへぎ板が使用されていたことになります。その屋根板生産に携わる職人を「屋根板へぎ」とか「板へぎ」、「へぎや」、「へーや」などと呼んでいました。
この仕事には農閑期の副業として従事する者もおり、どの村にも何人もいたものでした。板へぎは屋根板材用として払い下げを受けたサワラ財を剥ぐのを業として、そのほか附木職、経木職などの零細木材加工業に従事する者も多くいました。屋根板にはサワラ財が多く用いられ、クリも丈夫なことから使われたようですが剥ぎにくいといわれていました。
木曽福島町史、日義村誌より要約しました。
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