エッセイ集
愛器のふるさとを訪れて
木曽への想い
木曽―思い出と文化
唐沢美貴さんの夢
空気と音楽が美味しい音楽祭
自然の中の音楽祭

愛器のふるさとを訪れて

五十嵐康美(茨城県)

 ギターが好きで、60年代の日本製量産クラシックギターをコレクションしています。コレクションを始めた初めの頃、ネットオークションで、めったに見ることのない鈴木バイオリン社(木曽鈴木)の「木曽弐拾号」に出逢い、落札しました。このギター、60年代後半の製品と思われますが、ていねいに磨きあげるとトップにはかなりよい木材を使っていることがわかります。仕上げは若干雑な印象があるものの、なんとも言えず品のあるよい音でよく鳴るので、以来、このギターを常に身辺において弾いています。

 

鈴木バイオリン社はすでに存在せず、インターネットで調べてもこの楽器の来歴に関する情報はまったくなく、それでも知りたくて木曾町のホームページから直接町役場にメールしてみました。行政の対応の常、返事はないものと最初から半ばあきらめていましたが、日を置かずていねいに当時の関係者にこのギターのことを訊いてみると返事をいただきました。結果、あらたな情報はなかったものの、町役場の対応には正直、驚き、感激しました。音楽を大切にしていることがよくわかりました。

 

愛用するギターの生まれたこの町が主催する「木曽音楽祭」、今年初めて訪れました。レギュラーの室内楽団ではないさまざまの組合せ、どれもすばらしく緊密なアンサンブルで、さすがに一流の音楽家ばかり。こういうやり方は私の好きなジャズでいえばジャムセッションみたいなものですから、指揮者役やメンバーの組合せで音楽の性格が相当に変わると思われるところ。中心メンバーはほぼ固定のようですので、何度か足を運べば組合せの妙も楽しめるかもしれません。第37回の木曽音楽祭でもっともすばらしいと思ったのは、2日めのブラームスのピアノカルテット第3番、ハ短調。メン バーは野島稔(Pf)、久保陽子(Vn)、佐々木亮(Va)、山崎伸子(Vc)。予定されていたのは第2番のイ長調でしたが、当日変更となりました。しかし、むしろ円熟期の作品であるこちらのほうがよかったかもしれません。ほんとに凄い演奏でした。

 

宿(ペンション)で同宿した人たちは第1回からずっとという人も含めてほとんどがリピーター。御嶽山や木曽駒ヶ岳など近くの山への毎年の登山とセットにしている人もいました。最初は「まちおこし」で始まったと思われるイベントも町民にすっかり根づいているようです。木曽駒高原は夏なのに涼しく、宿のもてなしはあたたかく、地元のおばちゃんたちの売る名物「五平もち」や「朴葉めし」も美味、なるほど愛用する木曽鈴木のギターはこういう風土で生まれたのか、と納得しました。行き帰り中央道のひどい渋滞、連日の夕方の雨には悩まされたものの、近くにある御嶽山ロープウェイ、寝覚ノ床などへの観光は天候になんとか恵まれ、また来年、来てみたいと思わずにはいられませんでした。