ラッハナー 九重奏曲ヘ長調
解説:寺西基之
フランツ・ラッハナー(1803-90)は19世紀ドイツの音楽家である。兄や2人の弟もかなりの名を成した音楽家であったが、もっとも出世したのがフランツで、1823年にウィーンに定住し(ここで彼はベートーヴェンやシューベルトと親交を結んでいる)、同地のルター派教会のオルガン奏者やケルントナートーア劇場の首席指揮者を務め、さらに1835年にミュンヘン宮廷劇場の指揮者となって、後にはそこの音楽総監督にまで登り詰めるなど、ドイツやオーストリアの重要な地位を歴任している。作曲家としても、オペラから、交響曲、管弦楽曲、室内楽といった器楽曲、さらに宗教曲に至るまで、様々なジャンルを手掛け、古典的伝統に基づいた様式のうちに仄かなロマン的香りを加味した作風は当時広い人気があったという。 そうした彼の特質は、1857年に作曲されたこの九重奏曲(編成はフルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)にも明らかで、初期ロマン的な様式のうちにディヴェルティメント風の親しみやすさを持ったその作風は、同じ編成によるシュポアの先例にも通じるものである。 第1楽章(アンダンテ~アレグロ・モデラート)は、緩やかな序奏の後、ヴァイオリンのカデンツァを経て、伸びやかな曲想によるソナタ形式の主部に入る。明快さの中にも微妙な和声的陰影がロマンティックな趣を添える。第2楽章(メヌエット、アレグロ・モデラート)は生気あるメヌエット楽章で、のどかなトリオを挟む。第3楽章(アダージョ)は落ち着いた叙情の支配する緩徐楽章。第4楽章(フィナーレ、アレグロ・マ・ノン・トロッポ)は、軽妙な楽想に満ちたソナタ形式のフィナーレで、名技的なヴァイオリンをはじめ各楽器のコンチェルタントなやり取りのうちに運ばれる。
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